放射線とは
法律(原子力基本法)に基づく放射線の定義とは
原子力基本法 第3条第5号
「「放射線」とは、電磁波又は粒子線のうち、直接又は間接に空気を電離する能力をもつもので、政令で定めるものをいう。」
であり、政令で定めるものとは
原子力基本法 第4条
原子力基本法第3条第5号の放射線は、次に掲げる電磁波又は粒子線とする。
- アルファ線、重陽子線、陽子線その他の重荷電粒子線及びベータ線
- 中性子線
- ガンマ線及び特性エックス線(軌道電子捕獲に伴って発生する特性エックス線に限る。)
- 1メガ電子ボルト以上のエネルギ一を有する電子線及びエックス線
となっています。このように放射線といってもいろいろありますが、当部門で扱っている放射線を出す物質、すなわち放射性同位元素(Radioisotope)というものについて見てみようと思います。
原子に関する知識
みなさんご存知のように世の中にあるあらゆる物質は原子からできています。
昔は物質の最小単位は原子であると考えられてきましたが、今日では原子は最小単位ではなく、原子を構成しているさらに小さな粒子があることが知られています。
多くの化学反応は原子レベルで起こっていますが、放射線の関与する反応は核反応であり、化学反応よりさらに小さいレベルで反応が起こっています。
したがって、放射線を理解するには原子よりさらに小さいレベルの世界を理解する必要があります。
原子の構造
まず、原子は電子(e-)と原子核(N+)から成り立っています。
電子はマイナス(-)の電荷を持つ粒子であり、原子核はプラス(+)の電荷をもつ粒子です。原子核はプラスの電荷をもつ陽子と電荷を持たない中性子から成り立っています。
電子の質量は9.10953 x 10-31 kg、陽子の質量は1.67248 x 10-27 kgであり、中性子の質量は1.67478 x 10-27 kgであることが知られています。
つまり、電子は陽子や中性子に比べ、マイナス電荷を持った非常に小さな粒子であると言えます。
原子の安定性
基本的に安定な状態の原子からは放射線が出ません。不安定な原子が安定になろうとする過程で放射線が出ます。原子の安定性は原子核の構成に依存しており、 陽子と中性子の総数、陽子の数と中性子の数のバランスによって安定性が変化します。
では、どのような原子が不安定なのでしょうか?
放射性同位元素
原子の名前は陽子の数によって決まっています。例えば、陽子が一個のものを水素(H)、陽子が二個のものをヘリウム(He)という具合です。
しかし、原子核を構成している粒子は陽子だけではなく中性子という粒子があります。陽子の数は同じで中性子の数が異なるものを同位体と言います。
例えば単純な場合として、陽子1個中性子0個のものは一般的な水素原子(H:Hydrogen)といわれるものであり、陽子1個中性子1個のものを重水素(D:Deuterium)といい、 陽子1個中性子2個のものを三重水素(T:Tritium)といいます。これらはお互いに同位体の関係にあると言い、水素と重水素は安定元素であり、三重水素は不安定元素です。 したがって、三重水素は安定になるために放射線を放出します。
不安定原子の安定化ー壊変と放射線の放出
不安定原子は放射線を放出して安定化すると言いましたが、このような現象を壊変といいます。では、それがどのような現象であり、どのような放射線が出るのでしょうか?
不安定原子(原子核)の安定化には、大きく分けてアルファ壊変、ベータ壊変とガンマ線放出があります。それぞれの壊変形式について説明します。
アルファ壊変
アルファ壊変はアルファ線(ヘリウム(He)の原子核:陽子2個と中性子2個)を放出する壊変方式です。アルファ線は透過力が低く、紙一枚で遮蔽することができます。
ベータ壊変(βー壊変)
ベータ壊変は中性子が陽子とベータ線(電子)に変化する壊変方式で、紙は通過しますが、1cm程度のアクリル板で遮蔽することができます。
ガンマ線放出
これはアルファ壊変やベータ壊変と異なり、粒子を放出したり、粒子が変化したりしません。励起状態(エネルギーが高く不安定な状態)の原子核が基底状態 (エネルギーが低く安定な状態)になるときその差分のエネルギーを電磁波(ラジオの電波や日光の光と同類のもの)として放出するもので、 放出されるエネルギーの高い電磁波をガンマ線(エックス線)と呼びます。これは紙、アクリル板では遮蔽できず、分厚いコンクリートや鉛などの密度の高いものでないと遮蔽できません。
半減期について
これまで見たように、不安定な原子は放射線を出すことにより安定な原子に変わります。
したがって、ある一定量の不安定原子があったとしても、時間がたつにつれてその量は減少してゆきます。
そこで、初期状態の不安定原子の量がその半分の量に変化するまでにかかる時間を半減期と呼び、これは個々の不安定原子によって一定であることが分かっています。
この性質を利用することで、年代の測定や医療の現場で利用されています。
つまり、半減期の長い14C(半減期:5700年)は考古学、地質年代測定など非常に長い時間を測定する場合等へ応用があり、 また半減期の短い15O(半減期:1.7時間)は体内に取り込まれてもすぐに無くなってしまうため、医療等へ応用されています。
放射線の種類と人体への影響
放射線は上記で述べたようにアルファ線、ベータ線、ガンマ線(エックス線)がありますが、それぞれの放射線の性質によって人体へ与える影響が異なります。
アルファ線とベータ線は透過力が低いため、それらを発生する放射性核種が体内に取り込まれなければ影響はありません。
しかし、アルファ線やベータ線を放出する核種が体内に取り込まれた場合、アルファ線やベータ線は透過力が低いため、持っているエネルギーがすべて体内で吸収される。 したがって、アルファ線およびベータ線放出核種を扱う場合には体内被ばくに注意する必要があります。
一方、透過力の高いガンマ線(エックス線)放出核種の場合は、それを発生する放射性核種が体外にあっても人体へ影響を及ぼしてしまいます。 したがって、ガンマ線放出核種を取り扱う場合には体外被曝にも注意する必要があります。
このような性質を知った上で、どのようにすれば安全に取り扱えるのかを十分に理解して使用していただきたいと思います。