安全管理

放射線の安全取扱

はじめに

放射線は非常に微量な量を感度よく検出することができ、また物理学、化学、生物学、地学、医学など様々な分野で利用されています。 また放射線を利用してポリオレフィンなどの新素材の開発、植物の害虫の駆除、非破壊検査、蛍光灯のグロー管、レントゲン写真など我々の生活の中に深い関わりを持っています。 しかし、放射線を多量に浴びると(放射線を浴びることを被ばくといいます)、脱毛や白血病、死亡、さらには子孫にその影響が伝わる(遺伝的影響)など、 人体に対して負の影響を与えるリスクを持っています。

国際放射線防護委員会(ICRP)により、放射線利用における三原則が示されています。

行為の正当化

放射線利用によって生じる利益が、それにより予測される不利益よりも大きいこと。

防護の最適化

放射線による被ばくは、経済的および社会的要因を考慮に入れた上でできる限り低く抑えること。

線量制限

被ばく線量は線量制限を超えないこと。

放射線利用は、被ばくをしないようにその安全取扱に注意を払い、より大きな利益をもたらすようにしましょう。

放射線を利用する時に何か不明な点や事故が生じたら、必ず施設の「放射線取扱主任者」や「管理スタッフ」に連絡するようにして下さい。

1. 放射線の測定

放射線は目で見たり、あるいはその匂いを感じたりすることはできません。すなわち人間の五感では感知できません。 放射線を利用するためには、放射線測定器を利用して作業環境にある放射線量の測定を行います。 測定器は利用する放射線の種類に応じた測定器(サーベイメータ)を利用します。

測定の原理や実際の使用方法や注意事項をよく理解した上で、利用する放射線測定に適したものを選ぶようにして下さい。

主なサーベイメータには下記のようなものがあります。

α線の測定 ZnS(Ag)シンチレーション式
β線の測定 GM計数管式、電離箱式、(プラスチック)シンチレーション式、ガスフロー式
γ線の測定 電離箱式、GM計数管式、NaI(TI)シンチレーション式、半導体式
中性子線の測定 レムカウンタ、He-3比例計数管式、シンチレーション式

サーベイメータを取り扱う時は、下記の点に十分注意して下さい。

  • 使用前はバッテリーチェックを忘れない。
  • 高いレンジから使用する。
  • 衝撃を与えない。
  • 使用後は電源を切り、必ず元の場所に戻す。

また作業を行う際は個人の被ばく線量を測定するために個人線量計を必ず着用して下さい。

個人線量計には下記のようなものがあります。

検出器の種類 測定原理
フィルムバッジ 放射線によるフィルムの感光作用を利用したもの。
熱ルミネセンス線量計 物質の熱発光が放射線の照射によって増すことをを利用したもの。
光刺激ルミネセンス線量計 紫外線やX線などによって刺激された物質が、その後に赤外線などを照射すると、蛍光を発する現象(光輝尽発光)を利用したもの。
電離箱式線量計 入射放射線の電離作用を利用。
半導体式 検出器にPN接合形Si半導体検出器を利用。
蛍光ガラス線量計 放射線が照射されたガラスに紫外線により励起を行うと、オレンジ色の蛍光を発する現象を利用。

被ばく管理用バッジ取扱の詳細は、下記PDFファイルをご確認ください。

被ばく管理用バッジについて(PDF:174KB)

2. 被ばくに対する対策

被ばくには身体の外から放射線を浴びる「外部被ばく」と体内から照射される「内部被ばく」があります。 このうち外部被ばくはすべての放射線利用で対策を行う必要があります。外部被ばく防止の三原則に「距離」「時間」「遮蔽」があります。

「時間」を短くする

被ばくする線量は放射線を浴びる時間に比例して増加します。放射線を利用する時間はできるだけ短くして下さい。 そのためにRIを使用しない条件で予備実験(コールドラン)等を行うなどして実験操作に熟知するなどして下さい。

「距離」をとる

被ばくする線量は、距離の2乗に反比例して少なくなります。放射線を扱う場合は、トングなどの器具を使用して距離を離すようにして下さい。

「遮蔽」を行う

距離を離すのは限界があり、また実験を行う上で無理な体勢をとると、汚染の原因になることがあります。 そこで放射線が自分に届かないように遮蔽を行います。遮蔽を行う時は線質に応じた遮蔽を行います。

このうち、「遮蔽」を行うという手段が最も実際的な外部被ばくに対する防護になります。

具体的な遮蔽方法の一例を下記に示します。

線質 遮蔽方法
β線 数mm~数cmのアクリル板やアルミ板などで遮蔽を行います。
γ線 鉛ブロックやコンクリートなどを使用します。鉛ブロックでは操作が難しくなる場合は、透明な鉛含有のガラス板を使用します。
中性子線 中性子は等質量の1Hと衝突するときエネルギー損失が最大となります。このため水素原子を多く含む水、パラフィンブロック、コンクリートなどを利用します。

誤った遮蔽をするとかえって被ばくの原因となったります。誤った遮蔽方法の一例としては下記のものがあります。

強いβ線を直接鉛で遮蔽すると、β粒子が急激に減速することにより制動放射線(制動X線)が発生します。 このため、エネルギーの強いβ線を遮蔽するときは、プラスチックなどの原子番号の小さい物質で遮蔽をした後、原子番号の高い鉛等で遮蔽します。

遮蔽は自分が利用する放射線の種類に応じて適切な方法で遮蔽をするようにして下さい。

3. 記録の作成

放射線あるいは放射性物質を使用する場合には、入室の状況や放射線の使用状況や数量などを記録するようになっています。

記録する事項については、必ず記録し、放射性物質の紛失や事故が無いように十分に注意して下さい。

非密封放射性同位元素(非密封RI)の利用

非密封RIはその形状が粉末あるいは溶液で、溶液状にした後使用します。また実験器具類や床などに容易に付着しやすく、思わぬ場所から放射線が発生することになります。 RIが付着し、落ちない廃棄物は全てRI廃棄物として処理します。このため汚染をしやすい場所にポリエチレン濾紙を敷くなどの対策をとります。 ポリエチレン濾紙は吸水性が高く、RIの水溶液が付着しても、そこから汚染が広がる可能性が低減します。廃棄物を捨てる一時保管容器を手元に用意して移動距離をできるだけ短くする、 操作はポリエチレン濾紙を引いたバットの中で行うなど、汚染を拡大させないように、利用者個人が十分に気をつけて行って下さい。

非密封RIを使用した実験例

サーベイメータは使用する核種(エネルギー)に応じて適切なものを利用します。

高エネルギーのβ線核種(P-32等)はGMサーベイメータ、 低エネルギーのβ線核種(H-3、C-14等)はトリチウム用のサーベイメータを用いて測定します。 実験中は随時、実験終了後は実験で使用した実験室や機器などの汚染を測定しRIが残らないようにして下さい。汚染があった場合は速やかに適切な除染方法で除染して下さい。

汚染測定の注意

サーベイメータで放射線を検出する部分をプローブといいます。測定時にプローブを速く動かすと、放射線がプローブの中に入射する前に移動してしまうため、正確な測定ができません。

測定を行うときはプローブをゆっくりと動かすようにして下さい。またバックグラウンドと比較してカウントが高い部分があったときはその部分の測定を再度十分に行って下さい。

サーベイメータ写真

ハンドフットクロスモニタ使用上の注意

管理区域からでるときには、ハンドフットクロスモニタで測定しますが、黄衣を測定するプローブを速く動かすと、黄衣の汚染の正確な測定ができません。

ハンドフットクロスモニタを使用するときも十分に注意して下さい。

ハンドフットクロズモニター写真

内部被ばくの防止

非密封RIの使用では「外部被ばく」の他に「内部被ばく」にも十分に考慮しなければなりません。RIが体内に入る経路としては以下の経路があります。

経口 口、消化器を通しての摂取
経気道 呼吸器を通しての摂取
経皮膚 皮膚、とくに傷口を通しての摂取

内部被ばくを防止するために、使用をする際は下記の事項に十分注意して下さい。

経口摂取防止 管理区域内で飲食、喫煙、化粧を行わない(食物や化粧品に付着しそこから摂取してしまう)
経気道摂取防止 フードまたはグローブボックスを利用する(空気中のRI濃度が高くならないようにする)。特に揮発性のRI(I-125など)を扱う場合は十分に換気に注意する。 放射性同位元素を吸着する能力のあるマスクを着用する。
経皮膚摂取 作業を行う際は黄衣、手袋は必ず着用する(RIが皮膚に直接付着しないようにするため)。手に傷口がある場合はRIを使用しない。

除染に対する注意事項

  • サーベイメータ等で汚染している領域を調べ、その領域に印を付け、他の人が見てもわかるようにして下さい。
  • 除染をする際は化学性の低いものから行います。まずはキムペーパーなどに水を付けてふき取ります。それでも落ちない場合は、中性洗剤等で除染を試みます。除染用の洗剤は汚染検査室に常備していますのでご利用下さい。
  • ふき取るときはカウントの低い方から高い方へ向けてふき取ります。高い方から低い方にふき取ると、汚染を広げる可能性があります。
  • ポリエチレン濾紙などは、汚染した部分を切り取り、放射性廃棄物(可燃性廃棄物)として廃棄して下さい。また切り取った後の部分には新たにポリエチレン濾紙を貼って下さい。
  • 場合によっては、半減期を待った方が良い場合もあります(P-32の半減期は約2週間です)。
  • 目に試薬などが入った場合は、眼を洗顔器で洗浄して下さい。洗顔器は次の実験室に用意しています。
      動植物処理室(4階)、細胞培養室(3階)、RI実習室(2階)、RI排水処理実験室(1階)
    洗浄後、当部門のスタッフに連絡し、その指示に従って下さい。

汚染が生じても、何らかの処罰をすることはありません。

汚染が生じると作業環境に悪影響を与えたり、周辺の人が被ばくすることになります。汚染が生じた場合は、速やかに除染を行って下さい(早いほど効率よく除染できます)。

完全に除染ができない等、除染について不明な点がありましたら、スタッフに問い合わせて下さい。

実験で出た廃棄物は分類して廃棄するようにして下さい。またRIが付着したゴミを一般ゴミと混ぜないよう注意して下さい。

実験室が散らかっていると汚染の原因やほこりなどにより内部被ばくの原因になります。実験室の整理整頓も行うようにして下さい。

密封線源の安全取扱

密封線源とは放射性物質が金属に電着あるいは薄い窓などで覆われており、放射性物質が漏洩することが無い構造となっています。

被ばく防止について

密封線源の使用では、「外部被ばく」が問題となります。その使用に際しては、外部被ばくの防止に十分に注意して下さい。

取扱上の注意

線源を扱う場合は下記のことに十分に注意して下さい。

  • α線源やβ線源の被覆材は破れやすい構造となっています。ピンセットやボールペンなどで傷を付けないようにして下さい。
  • 被覆されていない電着線源の線源部分に触れないようにして下さい
  • 被覆材を破損した可能性がある場合は、目視、汚染検査で確認して下さい。
  • 被覆材の破損などの異常を発見した場合は、現状を保存し、主任者等に相談して下さい。
  • 使用終了時は線源を貯蔵室に収納し、紛失、脱落、汚染などが無いことをサーベイメータやモニタ線量計で確認して下さい。

校正用の線源は法律の規制対象外ですが、校正用の線源も同様に扱って下さい。

放射線発生装置の安全取扱

加速器は荷電粒子を電場により加速し、運動エネルギーを与え、加速した粒子を様々な研究に利用できる装置です。 加速粒子は電子、陽電子、軽イオンの陽子から重イオンのウランなどがあります。加速器は装置の停止中は安全ですが、そのエネルギーが大きいため、 謝って運転中の加速器室に入り致命的な被ばくをする事故が起こりえます。

加速器運転中の注意

加速器施設では、自動表示装置とインターロックが設置されています。加速器の使用中は自動表示装置の表示、インターロックがかかるようになっています。 このときには、ロックなどをはずして、管理区域に入室しないようにして下さい。また管理区域内に人がいる時(記録されているとき)は使用できないようになっています。

入室の記録を必ずつけて、他の人が分かるようにして下さい。

またサーべーメータの携帯や個人線量計の着用を忘れないようにして下さい。

運転終了後の注意

  • 加速器を停止した後、機械からの放射線はありませんが、周辺の機器やビームライン、冷却水等が放射化され、予想していない場所から放射線が生じる可能性があります。
  • 放射化される可能性のある部分は鉛ブロックやコンクリート、パラフィン入ブロック等で遮蔽を行って下さい。
  • 入室する際は、サーベイメータ、個人線量計を必ず携帯して下さい。
  • 周辺の機材や機器の冷却水等が放射化される可能性があるので、不用意に物品を持ち込まないようにして下さい。物品の持ち出しにも十分に注意して下さい。

加速器は得られるエネルギーが大きいため、被ばくしたときは致命的なものになるときもあります。装置を使用する際は施設や装置の安全マニュアルを理解し、十分に注意して下さい。

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