開催場所 | 京都大学放射性同位元素総合センター |
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開催日時 | 平成17年3月18日(金) 13:00~17:00 |
主催 | 大学等放射線施設協議会近畿支部 |
共催 | (社)日本アイソトープ協会放射線主任者部会近畿支部 |
1. 国際免除レベルの概要
国際免除レベルは国際原子力機関(IAEA)などの国際機関が共同で策定した「国際基本安全基準(BSS)」に定められている。これは規制を免除する核種ごとの放射能、放射能濃度の具体的数値基準である。被ばく線量基準(実効線量)は通常時では年間10μSv、事故時では年間1mSvを超えないとする線量基準を定めた上で、一定の被ばくシナリオを仮定し、科学的根拠に基づいて核種ごとに計算した数値であり、核種毎の放射能(Bq)、放射能濃度(Bq/g)からなる。これは障害防止法上の定義数量、定義濃度に相当する。
参考
年間10μSv(通常時)
放射線による影響がとるに足らないほど小さな線量 自然バックグラウンドは約2mSv/年であり、 10μSvは変動と比較して無視できる。
年間1mSv(事故時)
事故の発生確率を10-2/年とし、通常時の実効線量基準( 10μSv/年)と同じリスクとなる事故時の年平均実効線量基準を、通常時の10μSv/年を10-2/年で除することにより算出した。
2. 国際免除レベルの法令取り入れの目的、必要性
- 放射性物質の国際間の移動に伴う国際的整合性
原則として世界共通の基準を取り入れるため、放射性同位元素の輸出入や国際輸送の円滑化が図られる。 - 放射性同位元素の安全規制
一定の被ばくシナリオを仮定し、科学的根拠に基づいて核種ごとに計算した数値であるため、安全性の向上が図られる。
3. 対象となる核種数
国際原子力機関(IAEA)BSS | 295核種(日本で利用される核種で含まないものがある。) |
英国放射線防護庁(NRPB)R306 | 768核種(日本で利用される主要核種全てを含む。) |
提示された免除レベルは両者とも妥当であるので、基本的にBSSの295核種を取り入れるが、BSSに示されていない核種はNRPBの定めた免除レベルを採用する。
重要
- 免除レベルに密封、非密封の区別はない。
- 原子炉等規制法の対象核種であるウラン、プルトニウム、トリウムは除く。
- サマリウムについては、現在の使用実態を評価し、天然の組成比と同等の濃度を採用。
- 今回の改正では、排気・排水の濃度限度は変更しない。
4. 経緯及び今後の見通し
1996年 | IAEA等が国際免除レベルを提示 |
2002年10月 | 放射線審議会:国内法令に取り入れることが適切であると判断 |
2003年8月 | 放射線安全規制検討会:中間報告書「法令取り入れの基本的考え方」の提出 |
2004年6月2日 | 放射線障害防止法の一部を改正する法律公布 |
2005年4月 | 放射線障害防止法の施行令、施行規則、告示改正予定 |
2005年6月1日 | 放射線障害防止法改正法施行(予定) |
2007年3月31日まで | 経過措置期間 |
5. 放射線障害防止法の主要改正点
(1) 規制対象下限値の国際標準の取り入れ
- 国際原子力機関(IAEA)などの国際機関が共同で策定した「国際基本安全基準」で提唱されている免除レベルを規制対象下限値として導入する。
- 総体的に密封線源の下限値が小さくなることに鑑み、設計認証・特定設計認証制度を創設し、安全性を損なうことなく合理的な放射性同位元素装備機器の使用を可能にする。
(2) 安全性の一層の向上
- 主要許可使用者の安全管理を確認する定期確認制度を創設
- 放射線取扱主任者の定期講習制度を創設
- 期検査の対象を合理的に見直し
(3) 廃棄物埋設処分の規定の整備
- 廃棄物埋設処分の規制のための規定を整備
6. 定義数量の変更
これまでの定義数量
密封線源 | 核種に関わらず一律 数量:3.7MBq 74Bq/g(370Bq/g) |
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非密封線源 | 核種を4群に分類 数量:1群 3.7kBq、2群 37kBq、3群 370kBq、4群 3.7MBq 濃度:74Bq/g (370Bq/g) |
改正後、以下のように変わる。(別表1も参照)
7. 使用の許可と届出の区分の考え方
密封線源
数量 | |
規制対象下限値から1000倍以下の場合 | 使用の届出 |
規制対象下限値から1000倍を超える場合 | 使用の許可 |
非密封線源
数量 | |
規制対象下限値を超える場合 | 使用の許可 |
※複数の核種を使用する場合は、使用数量の規制対象下限値に対する和が1を超える場合 |
8. 規制対象、許可と届出の区分の明確化・合理化
下限値を超えているかどうかを判断する単位 | 許可・届出の区分 | 現行 | 改正案 | |
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密封線源 | 線源1個(一式又は一組)の数量 | 免除レベルの1000倍を超えるもの:許可 免除レベルの1000倍以下のもの:届出 |
届出レベルの線源を複数使用する場合は加算して許可・届出を判断 | 個々の線源で判断。届出レベルの線源は、何個使用しても届出。(一式又は一組として使用をする場合は、一式又は一組の数量で判断) 許可使用者が届出レベルの線源を追加する場合は、変更許可(従来通り) |
非密封線源 | 工場又は事業所の核種ごとの数量 | 免除レベルの1倍を超えるもの(種類が複数の場合、免除レベルに対する和が1を超えるもの) | 割合の和が1を超える場合、割合が極めて小さい種類を除外する規定なし | 事業所に存在する数量が免除レベルの0.01倍を下回る核種は、核種を申請するが、数量や被ばく評価を要しない。 |
許可使用者
- 線源1個の放射能が規制対象下限値の1000倍を超える密封線源を使用する者
- 事業所に存在する放射能が規制対象下限値を超える非密封線源を使用する者
届出使用者
- どれもが規制対象下限値の1000倍以下である密封線源のみを使用する者
9. 設計認証、特定設計認証
規制対象下限値の国際基準を取り入れることにより放射性同位元素の数量、濃度の小さい機器が新たに規制の対象となる。従って、機器のリスク、利用実態に応じた合理的な規制を構築する必要がある。そこで、設計認証・特定設計認証制度を創設する。
製造者等が申請を行い、国又は登録機関による認証を受ける。その際、設計、使用条件、品質検査が審査される。認証を受けると、ラベル表示、取扱説明書に使用条件等記載の義務がある。
設計認証機器(通常の使用時で使用者の線量が1mSv/年を超えないことなど)(校正用線源も放射性同位元素装備機器に該当)
具体例
微量環境分析機器(ガスクロマトグラフ)、放射線測定器校正用線源
使用開始後の届出(30日以内に使用者の届出)
適切な廃棄、廃止時の届出など
特定設計認証機器(放射能の小さな機器について、装置表面から10cmで、1μSv/時を超えないことなど)
具体例
煙感知器、切換放電管(レーダ受信部)
届出なし
適切な廃棄
10. 新たに規制対象となる放射性同位元素装備機器に関する経過措置(校正用線源も放射性同位元素装備機器に該当)
- 19年3月末までに製造された機器:廃棄についてのみ規制を受ける(19年4月以降も届出等を要さず使用できる)。(国際免除レベル導入に伴う混乱を最小限にするため)
- 設計認証を受けなかった機器であって19年4月以降製造されたもの:届出使用者としての義務がある。
11. 新たに規制対象となる機器の扱い(新規規制対象下限値を超え、現行定義数量以下の数量の機器)
使用中の機器(平成19年3月末までに製造されたもの)
- 平成19年3月末までに製造されたものは、廃棄に関する規定を除き、新法を適用しない。
- 平成19年4月以降も届出等を要しない。
- 不要になった機器は、製造業者又は販売業者に引渡し。
- 校正用線源も放射性同位元素装備機器に該当。
平成19 年4 月以降製造される機器
- 設計認証・特定設計認証を受けていない機器は、一般の線源として変更の許可・届出等の手続きが必要。
12. 下限数量以下の非密封線源の使用
下限数量以下の非密封線源について、許可使用者の管理区域外での使用を可能にする。
(1) 許可使用者以外の者の使用
- 事業所内における数量が下限数量以下であれば、許可・届出を要さない。
- 貯蔵している量、汚染されている物に付着している数量を含め、事業所内における数量が下限数量を超える場合は、所持制限違反となるため、許可が必要。
(2) 許可使用者の使用
- 一日あたり下限数量以下の数量を管理区域外で使用できる。
(許可を得た使用の目的、方法、場所の範囲内で使用)
(障害予防規程に所内ルールを定め、使用の記録等を記帳)
(業務従事者ではないが、放射性同位元素を扱う者としての教育訓練は必要) - 固体廃棄物の廃棄は、放射性廃棄物の廃棄の基準に従って行わなければならない。
(3) 許可使用者が管理区域外で下限数量以下の非密封線源を使用する手続き
- 使用の場所に、管理区域外の使用の場所を含める変更許可申請
(管理区域外の使用の場所における被ばく評価は不要)
(必要に応じ、使用の目的及び方法を変更) - 障害予防規程を変更し、所内ルールを明確化し、届出
-管理区域外の数量が下限数量を超えないことの管理の方法
-実際に使用する数量が下限数量を超えないことの確認の方法 - 管理区域外でのみ使用をする者に対しても教育訓練を実施
- 管理区域外での使用について使用・廃棄を帳簿に記帳
- 使用の基準、保管の基準等は適用しない
- 固体廃棄物の廃棄の基準は適用する
13. 販売・賃貸業の届出制化
現行法では、自ら放射性同位元素を取り扱う販売業、賃貸業を想定
→通常の流通と同様、中間業者として書類上の販売のみを行う事業者が多数存在
直接放射性同位元素を取り扱わないリース契約のニーズの高まり
改正後: 実物の取扱いがなければ「届出」となる。
参考
規制対象下限値以下の放射性同位元素の譲渡譲受は放射線施設間では通常の方法でできる。(放射線施設では総量で規制されるので、規制対象下限値以下であっても、規制される。)
問題は、放射線事業所からそうではない事業所への規制対象下限値以下の放射性同位元素の払い出しで、これはこのままではできない。規制対象下限値以下であっても、放射線事業所では規制されるからである。そこで、提案されている方法が、ある放射線施設で「販売の業」をとることである。販売の業を取れば、規制対象下限値以下の放射性同位元素を一般事業所へ払い出すことができ、一般事業所ではそれを用いて実験が可能となる。「販売の業」をとることは「届出」でできるようになる。
14. 施設検査等
定期検査・定期確認の対象
- 密封線源1個又は機器1台当たり10テラベクレル以上
- 非密封線源が下限数量の10万倍以上
定期確認の期間 ※定期検査と同じ期間
- 密封線源:5年
- 非密封線源:3年
- 放射線発生装置:5年
施設検査を要しない軽微な変更
- 1個当たり10テラベクレル以下の密封線源に係る増設等の変更
- 下限数量の10万倍未満の密封線源に係る増設等の変更
15. 廃棄物埋設に関する基準の整備
従来 | 焼却、圧縮など、あるいは施設で保管 |
今回の改正 | 最終処分場への埋設の規制に必要な規定を整備 |
16. 定期講習制度の創設(対象事業者、受講の間隔等の規定を整備)
対象事業者
- 許可届出使用者、許可廃棄業者
- 届出販売業者・届出賃貸業者*
*以下の販売・賃貸業者を除く。
・表示付認証機器のみを販売・賃貸する者
・自らは運搬又は運搬の委託を行わない者(直接放射性同位元素を取り扱わない者)
受講期間
- 選任後1年以内*、その後は3年以内**
*選任前1年以内に受講していた者は、受講後3年以内
*届出販売業者・届出賃貸業者(運搬等を行う者)は、受講後5年以内
受講時間
- 法令、放射性同位元素等の取扱い、施設の管理、事故の事例 各1~1.5時間以上
17. 放射線取扱主任者の選任区分の改正
密封線源の使用者(特定許可使用者)、その他の事業者(非密封線源の使用者、放射線発生装置の使用者、許可廃棄業者) | 1種 |
密封線源の使用者(許可使用者) | 2種 |
密封線源の使用者(届出使用者)、その他の事業者(届出販売業者、届出賃貸業者) | 3種 |
新たに設けられる3種 | 国家試験を課さず、講習の終了のみで与えられる免状 |
18. 移動使用(移動使用の範囲の拡大)
移動使用の都度許可を得る必要がなく届出で足りる範囲を拡大する。
移動使用の都度許可を要しない使用
密封線源 | 3テラベクレルを超えない範囲でA1値を規定(400ギガベクレル以上の機器は脱落防止機能が必要) |
放射線発生装置 | 直線加速器(4メガ電子ボルト未満) 橋梁・橋脚の非破壊検査 コッククロフト・ワルトン型加速装置(12メガ電子ボルト未満) 地下検層 |
放射線取扱主任者免状(密封線源:2種以上、発生装置:1種)を有する者が指示すること ※経過装置:3種主任者又はガンマ線透過写真技術者の指示を認める。(施行後5年間程度) |
19. 施設の設置等に関する設置基準の見直し
規制対象下限値が旧単位を前提としたものでなくなること、非密封線源については、事業所又は工場に存する数量として規定されることに伴う見直し
事項 | 改正案 | 現行 |
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自動表示装置の設置基準 | 400GBq以上 | 370GBq以上 |
インターロックの設置基準 | 100TBq以上 | 111TBq以上 |
主要構造部等を耐火構造又は不燃材料で造る義務の免除基準 | 密封線源:下限数量の1000倍 非密封線源:免除なし |
密封線源:3.7GBq 非密封線源: (第1群)3.7MBq以下・・ |
汚染検査室の設置義務の免除基準 | 密閉された装置内での使用 | 密閉された装置内での使用 下記の数量以下の使用 (第1群)370kBq・・ |
排気設備の設置義務の免除基準 | 気体状の放射性同位元素の発生や空気の汚染のおそれがないとき(設置が著しく困難なとき) | 下記の数量以下の使用 (第1群)370kBq・・ |
20. 合併・分割の手続きの合理化
改正後:「廃止」が必要なくなる。
21. 国以外の機関が実施する業務
BSSの取り入れにより規制対象が大幅に増加するため
- 引き続き国以外の機関を活用するもの
検査業務、試験業務、講習業務、運搬物確認、運搬方法確認(国土交通省所管) - 廃止するもの
機構確認 - 新たに国以外の機関を活用するもの
設計認証、定期確認、埋設確認、定期講習
22. 医療分野における規制(厚生労働省との連携)
放射線障害防止法による放射性同位元素としての規制から薬事法、医療法による放射性医薬品としての規制へ移行する。厚生労働省による規制のための制度の整備がされた段階で移行する。
参考
PET廃棄物の規制緩和に係る放射線障害防止法関係省令等の改正について(平成16年3月25日)
:11C, 13N, 15O, 18Fの廃棄物で7日間経過後のもののみ障害防止法の適用外とする。
23. その他の規制の合理化等
(1) 放射線発生装置の管理区域に立ち入る者の特例
放射線発生装置の修理期間中の管理区域立入者の健康診断等の義務の弾力化
- 工事、修理、点検により一定期間(7日間)以上運転しない場合、使用許可を受ける際にあらかじめ申請のあった区域について、当該区域に立ち入る者に対して健康診断等の義務を免除できることとする。(障害予防規程に所内ルールを定め、当該区域への立入りの記録等を記帳。)
(2) 放射線取扱主任者の選任の時期
放射線発生装置の設置、放射性同位元素の運び込みの前に放射線取扱主任者を選任する。
- 放射線取扱主任者の選任は、放射線発生装置の設置、放射性同位元素の施設への運び込みの前に行わなければならないこととする。
(3) 受入・払出手続きの明確化
- 放射線障害予防規程の記載事項に、放射性同位元素の受入・払出に関することを追加
- 記載事項に、受入・払出に係る放射性同位元素等の種類及び数量を追加
(4) 事業所外運搬の基準の斉一化
- IAEAの定めた放射性物質安全輸送規則の免除レベルの30倍を超えないものを低比放射性同位元素(LSA-I)として取り扱うこと
(5) 手続き等の規定の整備
- 法改正に伴い新設された届出制度等について様式等の規定を整備
- 法令報告の対象の明確化 等